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2012年4月27日

日本人はカラオケに何を求めているのか

執筆者:夢前黎

 

1.【初めに】

 

 前回のレポート『カラオケはどのような経緯で日本の巨大産業となったか』では、何故カラオケは他国ではなく日本で生まれ、国民的娯楽として多くの人から必要とされているかについて調査した。その結果、日本の抑圧的な環境の影響が大きいということが分かった。自宅の自室という最大のプライベート空間でさえ、近所のことを考えると大きな声を出せない日本人にとっては、カラオケは気兼ねなく騒げる稀有な施設である。また、自分の言いたいことを直接言うことが憚られる日本の文化の中では、歌は遠回しに本音を伝えるための必要不可欠な表現方法であり、日本人は親しい人々と歌い合える場を潜在的に求めていた。よって、カラオケの発明は必然的な帰結だったと言える。
 今回のレポートでは、カラオケが日本で生まれた理由をより詳しく調べると共に、日本人はカラオケに何を求めているのかについて考えたい。

 


2.【カラオケの誕生と発展を後押ししたもの】


 評論家の朝倉喬司氏の著書『カラオケ王国の誕生』(1993年)を参考に、カラオケの誕生と発展を後押しした20世紀後半の社会現象についてまとめる。

 

 

2-1 高度経済成長

 
 朝倉氏によると、「ちょうど高度経済成長が緒についたあたり。農村から大都市への人口移動の増加を背景にして、都市と「故郷」を思いの糸でつなぐモチーフの歌が次々に作られ、(中略)後に歌謡曲の"大御所"視される歌手がいっせいに世に出た」<注1>という。稼ぎのために故郷を離れた人々の郷愁が、歌謡曲の人気を生み出したのだ。
 好きな曲があれば自分でも歌ってみたくなるのが自然な心理であり、十分な技術力さえあれば、カラオケという娯楽を発想することは容易だったのではないかと思われる。高度経済成長期に入り、日本にカラオケを作る技術と歌を楽しむ余裕が生まれたことが、カラオケがこの時期に登場したことの要因となっている。
 しかし、これだけでは「日本で」カラオケが生まれたことまでは説明できない。日本の高度経済成長を待つまでもなく、欧米の先進国にはカラオケを作る技術と歌を楽しむ余裕があったはずだ。つまり、カラオケの誕生にはそれ以外の要因も絡んでいるということになる。

 

<注1> 朝倉喬司(1993年)『カラオケ王国の誕生』宝島社p13 

 

 

2-2 うたごえ運動

 

 朝倉氏によると、1950年代後半は「うたごえ運動」が非常に盛んだったという。
 うたごえ運動とは何だろうか。「日本のうたごえ全国協議会」は、次のように説明している。

 

日本のうたごえ運動は、合唱を主体としたサークル活動を基盤とする大衆的で民主的な音楽運動であり、内外の優れた音楽遺産を引きつぎ、専門家および大衆的創作活動と結び協力して、平和で健康なうたを全国民に普及することを目的とします。<注2>

 

 うたごえ運動は1948年に始まり、「一貫して平和運動や労働運動と結びつきながら全国にひろがり、国民的な音楽運動として内外の注目を集めるものに発展し」<注3>た。歌が国民の信念や主張を表現するのに使われたということだ。この運動により、歌は日本の中でより大きな意味を持つようになったと考えられる。

 

<注2> 日本のうたごえ全国協議会公式ホームページ(最終閲覧日:2012/02/24)
http://www.utagoe.gr.jp/

<注3> 同上

 

 

2-3 歌唱を重視する教育

 

 前回のレポートにも書いたように、アメリカの音楽教育は器楽の指導が主体であるのに対し、日本では歌唱が重視される<注4>という特徴がある。これが元々の国民性によるものなのか、うたごえ運動の成果なのかは分からないが、一つ言えるのは、義務教育中ずっと歌唱と接することになる日本人は、器楽を習って育つアメリカ人と比べて歌の経験が豊富であり、歌好きになりやすいということだ。

 

<注4> 大竹昭子(1997年)『カラオケ、海を渡る』筑摩書房p225 ,226

 

 

2-4 オイルショック

 

 朝倉氏によると、「オイルショックは高度成長時代の終りの表徴であったのと同時に、この時期から中小規模の商店、サービス業にとって「人件費」が非常な負担としてのしかかるようにもなった」<注5>
 人件費をいかに削減するか、それが問題となった時、集客効果の大きさの割に人件費はほとんどかからない(一度設置しておけば後は客が自分で操作する)カラオケは、逆にオイルショックを味方につけて設置店舗数を増やしていった。
 もし国の経済が順風満帆だったら、人件費を削減する必要がないのでカラオケはここまで広まらなかったかも知れない。そもそも、隠れたニーズを発掘しようという冒険心も湧かず、カラオケは発明されていなかったかも知れない。かと言って、景気が悪すぎると娯楽産業は流行らない。他のどの国でもなく、当時の日本の経済こそが、カラオケの誕生・発展にとって最も良いバランスだったのだろう。

 

<注5> 朝倉喬司(1993年)『カラオケ王国の誕生』宝島社p23
 

 

3.【プライベート空間としてのカラオケ】


 カラオケボックスは、プライベートな空間という性質と、親しい人だけで楽しく騒げる空間という性質を併せ持つ。前者は一人でカラオケを楽しむ「ヒトカラ」において顕著となるが、そうでなくとも、本当に気の置けない仲間同士の集まりであるならば、そこはある種のプライベート空間と言えるだろう。
 泊真児氏と吉田富二雄氏は、「社会的役割から離れて,他者の目を気にせずに自由に振る舞える自分固有の領域(時間や空間)」<注6>をプライベート空間と定義し、「緊張解消・自己内省・課題への集中・率直なコミュニケーション・気分転換・情緒的解放・自己変身」<注7>という7つの機能があると考えた。自己変身とは「普段の役割から離れて別の自己を演出する」<注8>ことで、一種の非日常的な空間であるカラオケボックスではこれが実行されているという。歌詞の主人公や歌手になり切って気持ちよく歌うことがこれに当たると考えられる。
 朝倉氏は、自分に合っていない歌を歌うと変に思われると述べている。<注9>しかしここではプライベート空間としてのカラオケに限定して考えるので、その場にいると想定されるのは自分一人か、もしくは自分が何を歌っても快く受け入れてくれる仲間だけである。その場合、自由に自己変身が行える。
 文筆家の大竹昭子氏は、「カラオケは自己陶酔とカタルシスをもたらす密室文化」<注10>であり、個室カラオケはそれを徹底させたものだと説明する。欧米では「知っている曲だと口ずさみ、最後には合唱になることが多い」<注11>。一方、日本ではマイクを持っている人はその曲が流れている間は主役となり、誰にも邪魔されず自己変身を遂げる。欧米と日本の歌の捉え方の違いがここに大きく表れている。日本のカラオケの在り方は、シテ(能・狂言における主人公役)一人が地謡や囃子に包み込まれて陶酔できる仕方噺とよく似ている。江戸時代から、あるいはもっと昔から、日本において歌は自己変身と自己陶酔のためのものだったのではないだろうか。
 自己顕示欲や変身願望は自然な欲求であるため、これは恥ずべきことではない。おそらく、カラオケを合唱で済ます欧米の人々も、他に自己の解放ができるプライベート空間を持っていて、そこで自己変身を楽しんでいるはずだ。日本においては、かつては仕方噺が、現在はカラオケが、その役目を担っているというだけの話である。人は誰でも、たまには普段と違う自分を演出したくなるし、注目を浴びたくなる。この欲求が不可避のものであるならば、下手に抑圧するのではなく、むしろ遠慮なく陶酔感に浸り、またそんな自分たちを許し合った方が、精神の健康のためには良いに違いない。
 ちなみに、「楽しいと感じるときには居酒屋・仲の良い友人(恋人)の家といった交友できる空間が最もよく利用されており,娯楽的な空間(娯楽施設・カラオケハウス等)やリフレッシュできる空間(映画館・行楽地等)も多く選ばれている」<注12>という調査結果もあるので、カラオケはやはり楽しいところなのだ。決して、自己陶酔した友人の歌を嫌悪するところではなく。

 

<注6> 泊真児、今野裕之、吉田富二雄(2000年)「感情状態とプライベート空間の7機能 : 場所利用を媒介として」『筑波大学心理学研究 22号』筑波大学心理学系p113

<注7> 同上

<注8> 同上

<注9> 朝倉喬司(1993年)『カラオケ王国の誕生』宝島社p158

<注10> 大竹昭子(1997年)『カラオケ、海を渡る』筑摩書房p234

<注11> 同上

<注12> 泊真児、今野裕之、吉田富二雄(2000年)「感情状態とプライベート空間の7機能 : 場所利用を媒介として」『筑波大学心理学研究 22号』筑波大学心理学系p118

 

4.【まとめ】

 

 カラオケが日本で生まれた理由は、大きく分けて二つある。一つは、20世紀後半の日本の経済が、カラオケの誕生・発展にとって良いバランスだったこと。もう一つは、日本人は歌の場を必要とする国民性を持っていたことだ。
 日本において歌の場は、遠回しに本音を伝えるための場であると同時に、自己陶酔して気持ちよくなるための場でもあった。日常生活の中では、目立つこと、目立とうとすることは良くないこととして捉えられることが多い(この慣習にも、本音を明かしにくい日本人の性質が表れている)。しかし、カラオケではマイクを握れば皆から主役として見てもらえる。多少自己陶酔しても許される。それが暗黙の了解となっているが故に、多くの人が思ってはいても言えないでいる「自分に注目してほしい」という願いを、歌うことで遠まわしに表現することができるのだ。
 もちろん、上記の欲求解消の他にも、日本人は様々なことをカラオケに求めている。義務教育で歌唱と慣れ親しみながら大人になる日本人は、歌好きになりやすい。そのため、好きな歌を歌いたいという単純な欲求も、他国の人と比べて旺盛な可能性がある。また、現代日本では大声を出せる空間は希少であるため、その点でもカラオケルームは重宝されている。

 

 

5.【参考文献】

 

朝倉喬司(1993年)『カラオケ王国の誕生』宝島社

 

泊真児、今野裕之、吉田富二雄(2000年)「感情状態とプライベート空間の7機能 : 場所利用を媒介として」『筑波大学心理学研究 22号』筑波大学心理学系
※次のURLで閲覧できる。
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/M43/M436511/12.pdf

 

大竹昭子(1997年)『カラオケ、海を渡る』筑摩書房

 

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