星新一っぽい読後感のショートショート第2弾。

いい商売

 

 ある日、地球に異星人がやってきた。彼の星の文明は、地球を遥かに上回っていた。
「友好の印に、一つだけどんな願いでも叶えてあげましょう。ただし、叶える願い事の数を増やせとは言わないで下さいよ」
 地球人たちは、こぞって案を出しあった。
「お金を出してもらいましょう」
「馬鹿かね、君は。それじゃあインフレになるだろう。今必要なのは化石燃料だ」
「それを言うなら、環境問題をどうにかしてもらいたいね」
「俺は地球人がみんな美男美女になればいいと思うのだが」
「病気をなくしてもらったら?」
 そこへ子供がやってきて言った。
「要するに、みんなが幸せになればいいんでしょう?」
「そうとも。でも、人それぞれ望みは違うから、それは無理な話だ」
「簡単なことだよ。『全人類を幸せにしてほしい』って言えばいいんだから」
 人々は、そんな願いは聞き入れてもらえないだろうと思いながら、試しに異星人に頼んでみた。すると意外なことに、異星人は喜んで引き受けてくれた。
 彼は、何やら掃除機のような装置を取り出すと、地球上から全ての不幸を吸い取った。その瞬間から、地球人は全員幸せになったのだ。


 世界から戦争が消え、飢えが消え、人類は一切の苦しみから解き放たれた。
 だがそのうち、人々は幸せである事に不満を覚える様になった。幸せに飽きたのである。刺激を求めて、地球人は異星人に相談した。
「異星人さん、どうにか我々の不幸を返していただけませんでしょうか」
「そんな、あなた方が望んだことでしょう。せっかくいただいた不幸です。返したくなんかありません。これは私のものです。……まあ、売ってやらない事もありませんがね」
 かつて幸せを求めた人々は、今度は不幸を買いに異星人のもとへ押し寄せた。
「うんとすごいやつを下さい。事故に遭うとか」
「俺はもっとすごい不幸を考えたぞ。乗ったバスがハイジャックに遭って、俺は乗客を守る為に犯人に立ち向かい重傷を負うんだ」
「何を、私なんて――」
 その様子を見て、異星人はほくそ笑んだ。
「どこの星のやつも、最初に願いを聞けば『幸せになりたい』と言う。そのくせ、本当は自分は不幸で可哀想なのだと思って嘆くのが大好きなんだ。全く、不幸を売るというのはいい商売だよ」

 

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