星新一っぽい読後感のショートショート第1弾。
Aは、鼻の脇のほくろが特徴的な、どうしようもなく短気な若者だった。
彼は、自分の気が短いのは、自分を育てた里親のせいだと考えていた。
「そうとも、もし俺が実の親に育てられていたならば、今頃こんな惨めな思いをしなくても良かったのだ。いや、そうでなくても、もっと俺の気持ちを分かってくれる里親に預けられていれば……」
そんな事を言いながら歩いていると、不意にさびれた店が目に入ってきた。
『クローン屋』
あんなところに店なんてあっただろうかと疑問を持ちながらも、Aは興味本位で店に足を踏み入れた。中は存外に広く、カウンターには一人の老人が座っている。だが、商品らしきものは見当たらない。
「いらっしゃいませ。ここに来るのは初めてのようですね」
「この店は一体何を売っているのですか?」
「店名通り、クローンですよ。お客様のクローンをお作りしているのです」
「ほう、クローンを」
Aは老人の商売にいたく興味を持った。
「私のも作っていただけますか」
数ヶ月後。Aは自分のクローンを受け取って、育て始めた。
「俺はお前、お前は俺だからな。俺はお前の事を世界で一番理解してやれる親だ」
ところが、成長につれ、クローンはAの短所を顕著に表すようになってきた。Aはそれが許せなくて、ついにクローンを殺してしまった。
Aは二人目のクローンを購入し、育てた。しかし結果は同じだった。
「おかしい。こんなはずはない。俺が育てているのに!」
購入しては殺害し、購入しては殺害し、そうして数十年がすぎた頃、Aはようやく理想の息子を手に入れた。けれども、彼はもはや自分のクローンを信じていなかった。
「お前がそんないい子なわけは無いんだ。なんたって、俺なんだからな。この嘘つきめ!」
Aは、そのクローンをも手にかけ、ぐったりとソファーにもたれかかった。
「ああ、どうやら俺の性格は、何度人生をやり直しても同じらしい」
「全くその通りだよ」
聞き覚えのある声にはっとして振り向いた時、Aはすでに拳銃で胸を貫かれていた。
彼が最後に見たものは、鼻の脇にほくろのある男の顔だった。