ああ、僕が死んでいく
僕の体は限界を迎え
今、再び虚無へ戻ろうとしている
僕はこの世界の主人公だった
僕の死を以って
物語は終わりを告げる
消えてしまうんだ
ここに僕がいた事も
ここに世界があった事も
最初から何も無かったかのように
僕なんかいてもいなくても同じだと宣言するかのように
消える
それは気が遠くなるくらい淋しい
僕は宇宙と呼ばれていた
僕は初め、小さな卵だった
夢がいっぱい詰まった、小さな卵
誰かに抱いてほしかった
ぬくもりがほしかった
でも、誰も僕に触れようとはしなかった
根拠も無く、外で誰かが待っているのだと思った
僕は弾けるように飛び出して
自分が果てしなく孤独である事を知った
僕自身が時空であり、存在であり、世界だった
幼い宇宙は世界を描き始めた
僕は広がり続けた
誰かが僕の存在に気づいてくれるまで
けれど、僕は大きすぎた
星や、その住人たちは
それぞれに孤立した世界を構築してしまった
何十億年も待って
自らを人間と称する生物が、僕の存在に気づいた
彼らは僕に名前をくれた
創世の謎に限りなく踏み込み
外の世界への扉を探して、僕の体内を飛び回った
人間ならこの世界を記録してくれるかも知れない
僕が死んでも痕跡が残るように
一抹の希望と期待
しかし、人類はあっけなく絶滅してしまった
いるかどうかも分からない異星人へのメッセージを残して
「私達はここにいた」
そう、僕はここにいる
だがそれに何の意味があるというのだろう
じきに僕は、いなかったのと同じになる
僕は何も残せない
世界は終わる
人類最後の望みを道連れに
哀しいなあ
淡い記憶は儚く溶けて
――そして、遥かなる寂莫が訪れた