『イルミナ』  中3の時書いたラノベ等身大すぎワロタww  →企画トップページ


第九章 真実のバラッド

 

 昔々、不思議な力を持つ人々がいました。その力はどんな魔導士の魔力よりも強く、何より光の力を操ることができたのです。しかし彼らは、自分達がどこから来たのか、またどこへ行くべきなのか、知りませんでした。分かっているのは、どこか安定できる場所を探し求めて旅をしているということだけです。人々は行く当ても無く、ただ世界を彷徨っていました。

 人々は、沢山の国を巡り、王様に頼みました。自分達の強力な魔力を国のために使うから、引き替えに住まわせてくれ、と。

 ですが、どの国の王様も皆同じでした。

 肌の色の違いなどで差別し、嘲笑いながら人々を国から追い出したのです。それでも人々は諦めませんでした。いつかは自分達を許容してくれる国が見つかると信じて。

 そして、ついに彼らは見つけました。それは三辺を山に囲まれた小国です。王様は人々を受け入れました。人々の喜び様といったら、表す言葉もありません。今まで母国を持つことがなかった彼らにとって、どこかに定住できるのは大変素晴らしいことでした。

 ですが、人々を待っていたのは、過酷な現実でした。

 たとえ王様が認めても、国民も認めると限りません。新鮮で幸せな生活を求める彼らを、国民は奴隷以下に扱ったのです。

 人々は絶望し、嘆きました。なぜ自分達だけが、このような目に遭わなければならないのかと。

 そして、いつしか悲しみは怒りへと変わりました。

 怒りを押さえきれなくなった女性が一人立ち上がり、皆に訴えました。奴らは獣だ。そのような獣の戯言にいつまで従うつもりだ。私の名はリッド。私と一緒に来い。自由にしてやる、と。彼女の言葉に惹かれた人々はリッドに付いていきました。そして、反乱を起こしたのです。桁違いな魔力を相手に、国の兵士は歯も立ちません。たった二日で国は滅び、民は皆殺されました。

 けれども、それだけでは人々の怒りは収まりませんでした。彼らは今まで自分達を迫害してきた全ての人間に、復讐を誓ったのです。

 小国だったとは言え、たった二日で一つの国を滅ぼした人々に、周辺の国は警戒心を抱きました。野放しにしておいては、いつかとてつもない脅迫になる、と、各国の王様は軍に抹殺の命令を出しました。

 どんなに強い魔力を持っていようと、所詮は平民。訓練された我々に敵うはずがない。人々をあなどった兵士達は、軽い気持ちで戦いに行きました。ところが、それは間違いでした。人々は生まれつき、戦争の才能に長けていたのです。今までには見たこともない絶大な魔力を相手に、国々の兵士は全滅していきました。

 このままでは自分達が危ない、と各国は人々に宣戦し、戦います。でも、勝った国は、一つもありませんでした。

 やがて人々の噂は世界中に知らされました。

 幻のように現れ、光で人々に悪夢をもたらす――そのことから、人々は「イルミナ族」と呼ばれるようになりました。

 世界は混沌の世となり、誰もが希望を忘れ、絶望の中に生きました。人々が本当の恐怖を知ったのはこのときかもしれません。

 そして、五十年の歳月が流れました。

 大地は荒れ果て、人々は廃墟のなかでうごめき、死の恐怖に怯えながら生きていました。

 無数の勝利を重ね、イルミナ族の勢力は大陸の五分の一にも及びました。もう彼らは復讐のために戦っているのではありません。長い間空虚だった己の心を、殺戮を通じて満たしていくためだけに戦っているのです。自分達の行動に疑問を持った人達もいました。しかし、戦いの中で生まれ育った彼らに、他の道はありません。たとえどんなに今の生活を憎んでいても、違う生活の仕方はわからない。そんな絶望感を抱いて、一部のイルミナ族は毎日の「狩り」を淡々と繰り返しました。

 しかし、変化が起こりました。

 一人のイルミナ族の少年が山へ狩りに行ったとき、足に大怪我をし、帰れなくなったのです。戦いを知り尽くしたイルミナ族は、あらゆる攻撃系の魔法を使いこなしましたが、思いやりの心がないためか、"守り(パレ)"と"回復(レクペラシオン)"だけは使えるどころか、知ってさえもいませんでした。少年は大声で仲間に助けを求めましたが、その声は彼らの耳には届きませんでした。

 けれども、近くに隠れ住んでいたアーク一家がその声を聞きつけました。一家は迷いました。自分達の命を危険に晒してでもイルミナ族の少年を助けにいくか、それとも怪我を負っている子供を見殺しにするか。迷いの末に、一家は助けに行くことにしました。たとえイルミナ族であっても、助けを求めている人を放っておくわけには行かなかったのです。

 一家に助けられ、手厚い看護のもとで、少年の傷はみるみる良くなりました。ですが、他の表情を知らない彼は、いつも仏頂面でベッドにいました。彼は分からなかったのです。なぜアーク一家が、敵であるはずの自分を助けたのかが。

 しかし、少年の怪我が治るのにつれ、一家の顔に憂いの色が浮かぶようになりました。少年をイルミナ族に返せば自分達の居場所がばれて、殺されるかもしれない。そこでアーク一家は少年に頼みました。帰っても、イルミナ族に自分達の居場所を話さないでおくれ、と。

 少年は一家の言葉を聞き、頭を下げてしばらく考えました。そして顔を上げ、口にした言葉に、その場にいた誰もが驚きました。

――僕は帰りたくない。

 彼はこう言ったのです。

 アーク一家に世話になった数週間、少年は今までにない感情を感じました。「喜び」と「楽しみ」。いつか読んだ本にはそう書いてありました。しかし、怒り、憎しみ、そして悲しみしかなかったイルミナ族の中でその二つの感情を感じたことは一度もありません。彼が「帰らない」決意したのは、ある不思議な声を耳にしたからなのです。

 それは、「笑い声」でした。

 アーク一家の幼い兄妹が庭で蝶を追い駆けていたときに、何気なく漏らしたその声が、少年の耳に届いたのです。

 僕はもう一度聞きたい、あの「笑い声」を。今まで僕が感じられなかった感情を、もっと感じてみたい。もう「仲間」のところには帰りたくない。少年はこう思いました。

――僕の名前はキト。僕を養子にしてください。

 少年キトはアーク一家に頼みました。

 一家は喜んでキトを受け入れ、そしてイルミナ族に見つかることもなく、共に楽しく十年間の時を過ごしました。

 キトはたくましい青年へと成長しました。毎朝始まる新しい一日を歓迎し、そして毎晩星明りに消えていく太陽を見送る生活は、まるで夢のようでした。ですが、その長く続いた幸福な夢も、ついには終わってしまいます。

 十年間もイルミナ族の目から逃れたアーク一家の隠れ家が、ついに見つかってしまったのです。

 それはあまりにも突然の出来事だったので、一家は抵抗する間もなく殺されました。キトは一家を守ろうと必死に戦いましたが、圧倒的な数の差の前に敗れました。彼は背中に"灼熱(フィエブレ)"の炎を受け、その傷跡は一生消えなかったと言われています。動けなくなった彼を、イルミナ族達は死んだのだと思い込み、そのまま立ち去りました。

 キトが目覚めたとき、そこにはもう馴染んだ幸せな場所はなく、代わりに醜い地獄の炎が辺りを赤く照らしていました。

 全てを失った少年は深い悲しみに包まれました。しかし、もう一つ、もっと強い感情が彼を支えたのです。

 それは愛でした。

――これじゃだめだ。イルミナ族はもっと沢山の人に会って、戦い以外のことを知らなくちゃいけない。僕がみんなに本当の幸せを教えなきゃ。僕がイルミナ族を変えるんだ……。

 キトはイルミナの村に帰って、人々にアーク家での幸せな生活を語りました。

――僕らのように戦いに身を投じて怒りの中で生きるより、あの家族のように善良な心を持って生きたほうが幸せなんだ。僕はただ皆に教えたい。希望という言葉を。

 その話に心を惹かれた者は多くいました。ところが、そこへ長老のリッドが来て、こう言ったのです。

 そんな話は茶番だ。キトを殺せ、と。

 キトの言葉を信じるか、それともリッドの言葉に従うか。それは一族に大きな波紋を投げかけました。「愛」という感情を知ったキトには、今までにない、イルミナ族にとっては追い駆けたくなるような力が備わっていたのです。

――僕を信じてください。

 その声に、四割の人が応えました。つまり、残りの六割は、キトの敵となることを選んだと言うことです。しかし、始めは戸惑いが大きかったため、争いは起こりませんでした。

 ある日、保守派と革新派の何人かが口論を始めました。一方は、戦いがなければ我々は生きていけない。善人になっても、幸せになれるとは限らない。それぐらいなら今のままが良いと言います。もう一方は、そんなことではいつまで経っても、この血と炎で彩られた赤い生活を続けることになるのだと言います。両方とも譲らず、魔法で戦った末、皆命を落としました。

 そのときから、二つの陣営は憎み合うようになりました。革新派はアーク一家にちなみ、自分達をアークと名乗りました。保守派はリーダーの名にちなみ、自分達をリッドと名乗りました。両者の間で度々争いが起きるようになり、ついにそれは個人的ないさかいを超えて、戦争に発展していったのです。

 アークとリッドの戦い。それは通称「アーク・リッド戦争」と呼ばれました。他の種族では成し得ない、激しい魔法戦争です。彼らが戦った跡は焼け野原になり、草木は灰の雲となって太陽を遮り、流れた血は川となって大地を赤く染めていきました。

 やがて、老いたリッドが死にました。指導者を失った保守派(リッド)は混乱し、革新派(アーク)に押され始めます。リッドの娘は敗北を覚悟して、イルミナ族の歴史を知っている限り書き残そうとしました。何故なら、キトが記憶や情報、概念を封印する魔法を思い付いたと聞いたからです。たとえその魔法が使われても、いつか誰かが昔受けた辱めと憎しみを思い出してくれますように。そう祈って、リッドの娘は自分より見逃してもらえる可能性の高い彼女の娘に、記録書を預けました。

 それから十日後、保守派(リッド)は革新派(アーク)に完全に降伏しました。リッドの娘は追い詰められて自決しました。残ったリッドの孫とその幼い息子の命をどうするか、革新派(アーク)がもめていると、キトが言いました。

――僕達は善人になりたくて戦ってきた。でも、これって矛盾していると思わないか? 戦いを止めるために戦うなんて。それが分かっていながら、僕達は本能の気が向くまま戦ってしまった。もう殺生はやめよう。全てを許し、全てを愛そう。

 数が半分以下になっていたイルミナ族達は、気候に恵まれた定住できる土地を探し出して、隠れのまじないをかけ、大魔法を使う用意を整えました。ただ、人々はそれがどんなものなのか、よく知りませんでした。

――怒りや憎しみ、悪や魔法に関する知識など、これからの僕達に必要のないものを、闇の魔法で具現化するんだ。

 キトが説明している間にもリッドの孫は記録を取り続けていました。

――そして、善人になりたい、幸せになりたいという思いを光の魔法で具現化して、闇を包み込む。それで全てが落ち着くはずだ。

 記録書はここで終わっています。

 イルミナ族はきっと、幸せな時が永遠に続くと信じて疑わなかったのでしょう。明るい希望を胸に抱いて光を操ったのに違いありません。

 そして、願い通り、彼らは長い幸せな日々を手に入れました。世間から切り離され、見つかることもなく、深い山奥でずっと暮らしていたのです。

 しかし、五百年後――。

 

 

 

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