2011年2~3月
※大学の授業で提出するレポートとして書いたものなので、参考程度にはなると思いますが、本格的に勉強するには不十分です。詳しいことが知りたい方はご自分でお調べください。
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アリストテレスは、それが何故存在しているのか、何故生じたのか、その原因を知らなければ物事を知っているとは言えないと考えた。事物の存在の原因を重視するこの考え方は、自然科学の研究をしているうちにすべてが目的を持って整合的に動いていることを確信したアリストテレスが、何事にもそれが存在するに至った原因があるはずだと考えた結果だと考えられる。
彼は、原因は質料因、形相因、起動因、目的因の四つの要素からなるという四原因説を唱えた。
質料因は、その事物の素材となっているものを示す。
例えば、目玉焼きの質料因は鶏卵と少量の食用油である。
形相因は、その事物がその事物であるための本質的構造を示す。
例えば、目玉焼きの形相因は、平らに広がった白身が黄身を囲んで目玉模様を作り出している形である。
質料因と形相因はその事物自体が持っている内在因であり、「その事物は物質的にどのような特徴を持っているか」の答えとなっている。
起動因は、動力因、作用因などとも呼ばれ、その事物の存在を引き起こしたものを示す。その事物が置かれている状況を生み出した動力そのものと言ってもよい。
例えば、目玉焼きの起動因は調理、ないしは調理人である。現代の日常会話で「原因」という言葉を使った場合は、大抵この起動因を意味している。
目的因は、その事物が存在している目的を示す。
例えば、目玉焼きの目的因は人に食べられることである。
起動因と目的因は、外部からその事物の運動や変化を引き起こす外在因であり、「その事物は何の目的でその場所に存在しているのか」の答えとなっている。
人の目の前に目玉焼きがあったら、その状況の目的因は人が目玉焼きを食べることであり、その状況の起動因は目玉焼きを作って持ってきた人物である。
アリストテレスの四原因説は、アナクサゴラスとプラトンの原因説の問題点を克服している。
まず、アナクサゴラスは理性(ヌース)があらゆる事象の原因であるというヌース原因説を説いたが、プラトンの『パイドン』に登場するソクラテスによってこのように批判された。
「彼は物理的な要因でしか物事をとらえていない。それでは、私が今死刑判決を受けて牢獄に座っていることを、関節や筋肉の動きだけで説明することになる。真の原因が理性であるなら、私が牢獄にいる真の原因は、私の理性が刑を受けることを善しと判断したことなのである」
一方四原因説は、目的因を考慮することによって、何のためにそのような状態になったのかを説明可能にしている。
プラトンはイデア原因説を説いた。イデアとは、理性でのみ認識し得る抽象的な本質である。
例えば、美しい人が美しくあるのは、美しさそのものというイデアが原因なのである。
しかしアリストテレスは、イデアは物事を抽象化して考えるという人間の性質が生み出しただけのものであるとして、イデア論を批判した。
プラトンの著書『パルメニデス』でも、イデア論の矛盾を指摘する「第三人間論」が紹介されている。
人物を見てそれが人間だと分かるのは、その人物が人間のイデアを分有しているからであるとすると、人間のイデアが人間のイデアだと分かるためには、人間のイデアは人間のイデアのイデアを分有していなければならず、無限背進が起こってしまうというものだ。
アリストテレスは、人間が知覚している事物とイデアが別々に存在していることを否定し、個々の事物にそれぞれ具体的な形相因が含まれていると考えた。そう考えることによって、「第三人間論」に悩まされずに事物の本質を原因の一要素として取り入れることができた。