初夏のそよ風に吹かれながら、僕と東条さんは緑の丘に座り込んでいた。自然に触れて新曲のインスピレーションを得ようという目的だったのだが、風があまりにも心地いいのでしばらく休憩することになったのである。
「空、青いね」
僕はぼーっとしながらぼーっとしたことを言った。
「雲、白いな」
東条さんもぼーっとしながらぼーっとした返事をした。
さらさらと、草の葉が揺れる。
「かっこよかったぞ」
東条さんは唐突にそう口にした。
「祝典の時、ボクのために命かけてくれたよね。あれ、かっこよかった」
またさらさらと、風が流れる。
「ボクはしあわせものだ」
そう呟いたきり、彼女はしばらく何も言わなかった。何か考え事をしているようだ。そう言えば、もともと新曲を創りにきたんだっけ。
「よし、決まった」
東条さんは立ち上がった。
「曲できたの?」
「ううん。ゴールデンウィークの行き先が決まった。『森羅万象遊園地』に行こう! 雪菜と木梨枝とお前を連れて!」
東条さんは笑い声を上げながら丘を登っていった。ぽむぽむ揺れる髪とドレスを目で追うが、あっという間に頂上を通り過ぎて、姿が見えなくなる。
「あれっ、乃木坂どこー?」
「ここにいるよ」
僕は東条さんを追って歩き出した。
この幸せな時間が、いつまでも続きますように。
END